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ローリング・ストーンズのルーツ、それも白人ロッカー3

立川トレビアン:

ELVIS PRESLEY / ELVIS PRESLEY

Elvis Presley/Elvis Presley
ビートルズやストーンズのルーツを語る時に、ブラック・ミュージックに触れる人はやたらと多い。
確かにそれはそうなんだけど、
それじゃあビートルズがデビュー当時に取り上げた『蜜の味』や『ティル・ゼア・ウォズ・ユー』はどうなるの?
さらにデビュー前に好んで取り上げていた『ベサメ・ムーチョ』はどうなっちゃうの?

このサイトを見た私の知人は、なぜビートルズのルーツを語る時に、
当時イギリスでブームになっていたスカを語らないのか!
と随分立腹していた。

そうなのだ。つまりブルースやR & Bばかり語るというのは、
実はビートルズやストーンズの伝記本みたいなものを鵜呑みにしていることに他ならない。
それだけで語るというのはビートルズやストーンズの宇宙の矮小な断片であり、
その手の音楽は、何もこのサイトで勉強しなくても、
巷に氾濫しているビートルズやストーンズの研究本で勉強すればいいのである。

しかし、私はあの手の研究本みたいなものに、どこか懐疑的なのである。
もちろん、彼等がブラック・ミュージックに強い憧憬を持っていたことに疑問符をつけているのではない。
ただ、あの手の本は美談と化したロック列伝みたいなところがあり、
それだけではないだろう!
と思うのである。

だいいちあの当時ブラック・ミュージックは、白人社会において無視されており、
メディアへの露出は、圧倒的にメジャーな白人モノが多かったはずだ。
そこらから影響を受けないはずがない。

というわけで、私が今回語るのは、エルヴィス・プレスリーのファースト・アルバムである。
エルヴィスはご存知のように白人ロック・ン・ロールのパイオニアというより、ビッグ・バンである。
これまた彼の伝記本や研究本では、彼はブラック・ ミュージックにハマり、
黒人のように歌える白人として、ロックに衝撃を与えたことになっている。

しかし、そうなのだろうか?

エルヴィスの場合は、黒人音楽の影響は、むしろ無意識が大きかったのではないだろうか?

何しろエルヴィスはミシシッピ州トゥーペロで貧乏人の倅として誕生し、
ガキのころ貧乏をこじらせて、家族でテネシー州メンフィスに移り住むわけだが、
この移り住みかたがミソである。
南部だけで移動しているではないか。
つまり白人のヤッピーが多い社会に進出していないのだ。

アメリカでフーテンをしていた私は、メンフィスを放浪した時に、
その黒人の数に圧倒され、たまに白人を見かけると、
「お前、何してんだよ、こんなとこで」
と憤慨したほど黒人ばかりの町なのだ。
ということは、庶民文化のほとんどが黒人のものなのである。
そうなるといくら白人といえども貧乏人は庶民文化ともいえる黒人の文化を享受するしかないはずだ。

エルヴィスが学生時代から黒人のファッションに身を包み、
黒人の縮れっ毛を伸ばすロイヤル・クラウンというポマードを使用していたのも、
趣味ではなく、それしか買えない家庭事情があったと私は推測する。

そして本題の音楽にしても、黒人文化が根強い地ということを考えると、
町に氾濫していた音楽が黒人のブルースであったり、
ゴスペルであったって、何も不思議ではない。

つまり、エルヴィスは無意識のうちに、ブラック・ミュージックを聴いていたわけだ。
もちろん、それを「いい」と思えるセンスはエルヴィスにあったはずだが……。

むしろ、晩年にエルヴィスが歌う『マイ・ウェイ』などを聴くと、
実はエルヴィスの家には、一応正しく保守的な白人家庭同様、
貧乏人のくせしやがってずいぶん無理しちゃって、
ビング・クロスビーの『ホワイト・クリスマス』や、
フランク・シナトラのレコードが揃えられていたと考えられるのだ。

つまり、家庭というか、白人として受け継がれる影響は、
黒人音楽よりも、スタンダードを歌う取り澄ました白人音楽ではなかっただろうか?

例えばエルヴィスのメジャー前夜となるサン・レコードでの録音では、『ザッツ・オールライト』が面白い。
サン・レコードの社長サム・フィリップスは黒人のように歌える白人としてエルヴィスに目を付けるのだが、
真面目に(黒人を意識して)歌った『ザッツ・オールライト』はすべてN Gにしている。

ニッチもサッチもいかなくなった時に、スタジオでふざけて歌った『ザッツ・オールライト』に
サム・フィリップスは黒人のニュアンスを嗅ぎ取りゴーサインを出したのだ。
つまりこれぞ無意識が意識を凌駕した瞬間なのである。

その後メジャーに移籍したエルヴィスは、周囲の黒人風な歌手というレッテルにおおいに悩むはずだ。
サン・レコードで意識した黒人風は却下され、
意識していない部分での黒人風が独り歩きしてしまったからだ。
そこで彼ははたして黒人の粋というのは何ぞやと、随分頑張って考えちゃった。

そして、出た結論は、日頃触れていた黒人の言葉にこそ、その神髄があるということだった。
そして彼は大衆に向かって彼が思う黒人言葉を口にした。
「一発やらせろ!」

これは確かに衝撃だったはずだ。
それまでの白人社会で、黒人の「一発やらせろ」に該当する言葉は、
「ごきげんよう」しかなかったからだ。

こうしてエルヴィスは、この黒人っぽい言葉でもって大スターになり、
その勢いは世界中へ飛び火した。

後年ジョン・レノンは、人生最大のショックは、
エルヴィスの登場と、ヨーコとの出会いだったと語っているように、
イギリスのロックを志す若者達に、黒人音楽の神髄とは、
「一発やらせろ」
にあるという指針を与えたのだ。

この部分で、エルヴィスは、彼以降のロックに絶大な影響を与えるわけだが、
とりわけこの「一発やらせろ」精神を強く受け継いでいるのが、ストーンズのミック・ジャガーである。

アメリカ以上に入手が難しいブルースのレコードは、イギリスの若者にとって憧れであったが、
今イチ理解できない部分を持っていたはずだ。

しかしエルヴィスの登場で、ミックは、難しいことをあれこれ論じる愚かさを捨て、
『一発やらせろ』道を邁進するようになるのだ。

キース・リチャーズはギターを手に入れるや、
いきなり鏡の前でエルヴィスのポーズを決めたことはつとに有名である。
これなんぞは意識下にあるエルヴィスの影響だが、
ミックの『一発やらせろ』根性は、
そもそも誰が最初にそれを具現化したのかも分今となっては
分からないというニュアンスにまで昇華してしまい、
見事にエルヴィスから無意識の影響を受け継いでいるのである。

こうしてストーンズはエルヴィスというフィルターを通して、
今も見事にフェイク・ブラック・ミュージックをフェイクと思わずに演りまくり、
夜な夜なはた迷惑を続けているのだ。

晩年のエルヴィスは、『一発やらせろ』に変態性を増していき、
甘く切ないシナトラ的解釈も加わり、
具体的にどのようなハレンチなプレイをしたいかという欲求を
つぶさに余すところなく雄弁に語るようになっていき、
『ホワイト・クリスマス』と『ラン・ルドルフ・ラン』が線でつながるということを、
我々に教えてくれたが、最近のストーンズ、
とりわけミックは、『一発やらせろ』というのさえもどかしく、
無言で押し倒し強姦してしまうという大久保清イズムが 加わっている。
それこそが進化するロックというものであろう。

エルヴィスによるロック大発明ともいえる『一発やらせろ』精神の根本が、
実はこのエルヴィスのファースト・アルバムにギッシリ詰め込まれている。
このアルバムを聴き、ストーンズの原始の息吹を感じることができれば、
最早こざかしく美談を連ねた伝記本や研究本などが、
実はなんの意味もないことに気付くだろう。

ELVIS PRESLEY / ELVIS PRESLEY
ELVIS PRESLEY / ELVIS PRESLEY
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土田:コメント

私は音は好きでも歴史の本はあまり読まない人間なので今までの定番の先入観みたいなものが無く、
立川さんのプレスリー論はなんの偏見も無く素直に関心してしまいました。

●プレスリーという事で私も世間に対して言いたい事があります。(ビートルズの話になっちゃいますが...)

ビートルズのLady madonnaの曲解説っていうと、
必ずと言って良い位「プレスリーの歌い方を意識している曲」みたいな評論がされてると思いませんか?
(ビートルズの研究本もそんなには読んでませんが)

私に言わせりゃどう考えたってファッツ・ドミノです!
仮に百歩譲ったとしても「ファッツ・ドミノを意識しているプレスリーを意識している(笑)」です!

今この場を持ってその間違った説を私が代わりに訂正してお詫び致します(笑)。
これはファッツによるLady madonnaのカバーを聴けば一発で解るんですけどね
○(ベスト盤には入ってませんがビートルズカバーのVAには良く収録されてます)。

SOUL TRIBUTE TO THE BEATLES / VA

これは邦楽を例に挙げるなら、
クレイジー・ケン・バンドが和田アキ子の曲調や歌い方を意識して作った「タイガー&ドラゴン」を
和田アキ子自身がカバーした様なもんです。

プレスリーが黒人の様な白人ならファッツは白人の様な黒人といった所でしょうか。
ファッツはいかにも良い人そうですし、
常識人のポールは不良っぽいロックンローラーよりも好きだったに違いない!!
メロディーの良い曲をあんなに量産した50年代のR&B系シンガーソングライターは他にいない!
(Dave bartholomewの貢献もあるのかも知れないが)。

こういった所もポールに通じるもんがある。
そしてポールのリスペクトが1990年頃のカバーアルバムでようやく形になるのである
(I'm in love againはミック・グリーンの勧めかも)。

よってポール(あとミック・グリーンも)が好きな人は絶対にファッツ・ドミノを聴け!

※ちなみに例のBack in the USSRはミック・グリーンらしいプレイは聴けません。
グリーン目当てならRun devil runの方がはるかに良いですよ。
ていうかDVDライブ・イン・キャバクラ2000はもっと良い!
ミック・グリーン大先生によるI saw her standing thereのカッティングは
まるで「あのオッサンに弾かせるためにあの曲を作ったんじゃないか?」って思える程だ!

あれ?いつのまにかミック・グリーンの話になっちゃった(汗)


立川トレビアン:コメント

まさしく、私のエルヴィスとストーンズでいいたかったことを、
土田様に代弁してもらったような気分です。

ストーンズとエルヴィスの共通点から、
ビートルズの『レディ・マドンナ』に話が飛び火し、
そしてそれが、ファッツ・ドミノへと発展していく!

このようにビートルズやストーンズの宇宙は、
一つの音に型をハメられないのが魅力ではないでしょうか?

つまり、ブラックもあれば、シナトラ、
いやクラシックだって、
ロシア民謡だって彼等の宇宙には点在しているはずです。

そうして書いている私のような人間にも、
書いている途中で意外なものが見つかって、
着地点が全然違ったところにいってしまった、
みたいなものがビートルズやストーンズの魔性ではないでしょうか?

BEAT-NET様や土田様のブルースへの愛も一つの形ですし、
そこを私は否定したつもりはありません。
ブルースがポピュラー・ミュージックの根幹であることに違いはありません。

ただ、初級、中級とはいえども、
ビート・マニアに1方向だけ示すのは、
少し乱暴な気がしているだけです。

私もブラック・ミュージックに対するリスペクトは持っているつもりです。
(とはいえ、お二方のように深くといいきる自信はありませんが……)

ですから、いいわけがましくなっていますが、
サイト内での私のポジションは、
やはりそれ以外の何かからひも解く必要があるのではないかと、
うっすらとではありますが、考えています。

そうして今回はエルヴィスとストーンズの共通点を強引に書いてみたのですが、
それがビートルズ、ファッツ・ドミノへと発展していったわけですから、
私の意図が伝わったような気がして、満足しております。

できれば、もっとエルヴィスとストーンズから、
みなさんが思ったことを掘り下げてくれれば、
ビート・マニアにも、いえ、私自身にも、
「ああ〜、世の中って、ままならないものだな〜」
という発見につながるのでは? と考えております。

極個な意見の交換が、
エルヴィス〜ストーンズ〜ビートルズ〜ファッツ・ドミノで終結するのではなく、
あれあれ、三波春夫になってしまった、
みたいな……、
そこまでは発展しませんよね。


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